自閉症の子どもとスケジュール表の行動モデル

スケジュール表

自閉症の子どもはスケジュール表を使うと、その内容の通りの一連の行動をします。

この記事では、なぜそのような行動をするのかを行動分析学的に紐解いていきたい思います。

この記事には、行動分析学の専門用語がいくつも登場します。予備知識のない方には難しい内容ですが、できるだけ解りやすく紐解いていくつもりです。

解説の前に2つの前提がありますのでご承知おきください。

  1. 自閉症の子どもが始めからスケジュール表を上手く使えるわけではない。個人差はありますが、スケジュール表を適切に教えると、短期間で上手く使えるようになります。
  2. どんな内容でもスケジュール表の通りに行動するわけではない。私たちが普通に子どもに望む行動でも、スケジュール表上での見せ方によっては子どもは行動を拒否します。しかし、その行動を子どもがスムーズに行うような見せ方が存在します。

それでは、ゆっくりと紐解いていきましょう。

行動分析学上のスケジュール表のメカニズム

最初に結論です。

自閉症の子どもはスケジュール表を使うと、その内容の通りの一連の行動をします。

その行動分析学上でのメカニズムは、

  • スケジュール表上に示された一連の行動予定は、随伴性の記述に相当します。
  • 子どもはそれを見ることによって、随伴性の記述自己教示が起こります。
  • その一連の行動予定が本人にとって好ましい内容である場合、随伴性の記述自己教示弁別刺激となり、行動を開始します。
  • そして、一連の行動の結果と随伴性の記述が一致していることが一連の行動を強化します。ここで、その随伴性は本人にとって好ましい内容だったので、その随伴性の内容自体が一連の行動の強化子になっています。

普通の言葉で言うと、

  • スケジュール表上の行動予定を見て、
  • それが本人にとって好ましい内容であると理解すれば、
  • その一連の行動を開始します。

専門的には、

随伴性の記述自己教示弁別刺激となって自発する行動は、ルール支配行動と呼ばれます。

行動の分類とルール支配行動の特徴

このパートではルール支配行動の性質を解説したいと思います。

動物や人間の行動は大きくは2つに分類されます。

  • レスポンデント行動:特定の刺激によって反射的に起こる行動。
  • オペラント行動:特定の刺激によって誘発される行動で、その行動の結果により、その行動の誘発頻度が増加する(または減少する)行動。

レスポンデント行動には2種類あり、生まれつきの反射は無条件反射、生後に身につけた反射は条件反射とそれぞれ呼ばれます。ロシアの行動学者パブロフが発見し、「パブロフの犬の実験」で有名なのが、条件反射です。

オペラント行動は、三項随伴性ABCモデル強化原理とも呼ばれます。

  • A) 環境の状況 (Antecedent) [行動のきっかけとなる刺激]
  • B) 行動 (Behavior)
  • C) 結果の環境変化 (Consequence) [これが随伴性]

最初のきっかけとなる刺激は、弁別刺激と呼ばれます。

最後の結果の環境変化の刺激は、強化子と呼ばれます。

行動の結果によって、次回からの行動が増えたり減ったりするので、行動の学習と考えればいいと思います。

基本的には、4つのパターンがあります。

  1. 好子出現による強化強化子が現れることで、事後の行動頻度が増加する。(例えば、行動後にご褒美が出てくると、その後その行動が増える。)
  2. 嫌子出現による弱化強化子が現れることで、事後の行動頻度が減少する。(例えば、行動後に罰が出てくると、その後その行動が増える。)
  3. 好子消失による弱化強化子が無くなることで、事後の行動頻度が減少する。(例えば、行動後に好きな物を取られてしまうと、その後その行動は減る。)
  4. 嫌子消失による強化強化子が無くなることで、事後の行動頻度が増加する。(例えば、行動後に嫌なことが無くなる、その後その行動は増える。)

オペラント行動には、行動に先行する弁別刺激が存在します。この弁別刺激に特殊なパターンがあります。弁別刺激が「随伴性の記述自己教示」(「これをすればこうなる」と頭の中で自分に語りかけること)である場合に、そのオペラント行動ルール支配行動と呼ばれます。ルール支配行動は、人間だけに見られる行動です。

弁別刺激が単純な刺激である場合には、そのオペラント行動随伴性形成行動と呼ばれます。

一旦、動物や人間の行動の分類をまとめます。

  1. 無条件反射:生まれつきの反射的な行動。
  2. 条件反射:生後身につけた反射的な行動。
  3. 随伴性形成行動:単純な刺激によって誘発される行動で、行動後の環境変化の刺激により、事後の行動頻度が増える(または減る)行動。
  4. ルール支配行動:随伴性の記述の自己教示によって誘発される行動。このタイプの行動は人間だけに現れる。

オペラント行動には、随伴性形成行動ルール支配行動がありました。ここからは、随伴性形成行動と対比しながらルール支配行動の性質を説明したいと思います。

  • ルール支配行動は人間だけに現れる行動。ルール支配行動弁別刺激は、随伴性の記述自己教示です。それには言語能力が必要です。そのため、ルール支配行動は人間だけに現れます。一方、随伴性形成行動弁別刺激は、単純な刺激です。そのため随伴性形成行動は、動物にも人間にも現れます。
  • ルール支配行動はその習得が早い。随伴性形成行動で行動を身につける場合、何度も何度もその状況を経験する必要があります。一方、ルール支配行動は習得が早く、極端な場合は未経験のことでも行動を自発します
  • ルール支配行動でも随伴性の成立が必要。もしも、ルール支配行動で行動を自発したとしても、結果的に自己教示にあった随伴性が成立しなかったら、次回からその行動を自発しなくなります。1回または数回の随伴性の不成立で、その行動の自発は無くなっていきます。
  • ルール支配行動には自発だけでなく自制(行動を起こさない)のパターンがある。随伴性形成行動には行動が増えたり減ったりで、基本パターンが4つありました。ルール支配行動にも幾つものパターンがあり、少々複雑です。
  • ルール支配行動は、それ自身が強化される。人間は個別のルール支配行動により、自己教示や予定に従った行動を数多く経験します。通常そのような行動の結果は、本人にとって好ましい結果であり、トラブルが少なくて済みます。そのため、行動の随伴性が本人にとって好ましいか好ましくないかに関わらず、予定に沿った行動すなわちルール支配行動そのもの頻度が増えていきます。

普通の言葉で言うと、

  • 人間は予定に沿った行動が好きです。
  • 予定に沿った行動は、未経験でもできます。
  • 想定どおりの結果が起こらないと、その行動をしなくなります。
  • 罰のあるルールを認識すると、その行動をしません。

「自閉症の子どもは見通しを立てるのが苦手」を行動分析学的に表すと(その1)

一連の行動を自発するとき、私たちや健常な子どもは、無意識のうちに頭の中に見通しを立てて行動しています。よく言われていることに、「自閉症の子どもは頭の中で見通しを立てて行動することが苦手」というのがあります。

私たちが普通に使う「見通し」が、専門用語でいうところの「随伴性の記述」です。そして、「見通しを立てる」は、「随伴性の記述自己教示」に相当します。

自己教示を一歩掘り下げて表すと、内言タクトに相当します。

行動分析学の一つの体系に、言語行動(Verbal Behaviorl)と呼ばれるものがあります。言語行動は、人間がどのようにして言葉を発する行動を身につけていったか(強化)を体系付けた一つのモデルです。言語行動は、話手と聞き手の相互作用によって強化されます。

言語行動は6つの機能に分けられます。その中でも、マンドタクトとそれぞれ呼ばれる2つの機能が重要です。

  • マンド(mand):他者に物を要求したり、他者に行動を命令する機能。demand, comandから取った造語的な専門用語。
  • タクト(tact):自分の見たことや感じたことを他人に伝える機能。イメージとしては、報告やコメントが近い。contactから取った造語的な専門用語。

別の側面から見た、自閉症の子どもとタクト

ここで、別の側面からタクトを見ていきたいと思います。

A.ボンディー博士とL.フロスト女史が提唱し、主に喋れない自閉症の子ども支援に効果を上げているPECS(ペクス:絵カード交換式コミュニケーション指導法)があります。

このPECS、絵カードを使うので簡単そうに見えます。しかし、重度の自閉症の子どもでもPECSが使えるように教えるには、親や指導者はちゃんとしたPECSの指導書を勉強しないと上手くはいきません。

PECSは、段階的に教えていきます。その段階は、フェーズIからフェーズVIに分かれており6段階あります。このフェーズ分けは、言語行動(Verbal Behaviorl)という行動分析学のモデルに基づいています。フェーズIからIIIではマンドの機能の習得が目標になっており、フェーズIVからVIではタクトの機能の習得が目標になっています。

実際に自閉症の子どもにPECSを教え始めると、フェーズIIIまでは順調に進みます。フェーズIIIまで進むとすなわちマンドの機能が子どもに備わると、子どもの生活はかなり楽になります。ただ、そこから先がなかなか進みません。フェーズIVからは段階的にタクトを教えていきます。フェーズIV以上が進まない、あるいは進められない親御さんや指導者も多いようです。

結局、自閉症の子どもにタクトの機能を身に付けさせるのは難易度が高いのです。

話を戻しましょう。

  • 自閉症の子どもはタクトが苦手です。
  • 当然、自分で自分にタクトする行為である内言タクトも苦手です。
  • 内言タクト自己教示は同じ意味です。
  • だから、自閉症の子どもは「随伴性の記述自己教示」が苦手です。すなわち、見通しを立てることが苦手です。

ルール支配行動は、随伴性の記述自己教示弁別刺激とした自発行動でした。そのため自閉症の子どもは、ルール支配行動が苦手です。

自閉症の子どもに対するスケジュール表の役割

スケジュール表は、これからの行動予定を視覚的に表したものです。これからの行動予定を専門的にいうと、随伴性の記述になります。

自閉症の子どもは、頭の中での自己教示が苦手でした。それだけでなく、親御さんや支援者から言われた行動予定、すなわち他者に言われた教示を頭の中に保持することも苦手です。

ところが自閉症の子どもでも、スケジュール表で見せられた行動予定、すなわち随伴性の記述を理解できるようになります。すなわち、スケジュール表を見せられている間は、それが随伴性の記述の教示として働くわけです。

なぜ、自閉症の子どもはスケジュール表に反する行動をしないのか?

スケジュール表の支援に慣れた自閉症の子どもは、スケジュール表で示された行動予定に忠実に従います。言い換えるとスケジュール表を見ている間は、それを逸脱する行動をしません。なぜでしょうか?

人間が自発的な行動を起こすには、随伴性の記述自己教示が必要でした。すなわち、別の行動を起こすには、別の随伴性の記述自己教示が必要です。

自閉症の子どもは、随伴性の記述自己教示が苦手でした。そのため、スケジュール表を見ながら、それとは別の随伴性の記述自己教示ができないのです。言い換えると、スケジュール表で見せられた内容が、自閉症の子どもにとって唯一の随伴性の記述となってしまいます。

そして、スケジュール表で示された行動予定に忠実に従うのです。

一方で、健常な子どもは、スケジュール表を見せられながらも、別の随伴性の記述自己教示ができます。平たくいうと、健常な子どもはスケジュール表の内容を参考にしながら、別の行動をすることもありうるのです。

自閉症の子どもへのスケジュール表の支援をなくすことができるか?

自閉症の支援者の中には、スケジュール表は行動を促すプロンプトであって、スケジュール表の提示を徐々に無くしていくことができると考えている方も多いと思います。本当に、なくせるのでしょうか?

そもそもプロンプトは、本来の弁別刺激弁別刺激として働いていない場合に、本来の弁別刺激と同時に提示する刺激です。ゆくゆくは、その本来の弁別刺激弁別刺激として働くことを期待しています。そして、それが弁別刺激として働くようになった時、プロンプトは無くせます。

健常な子どもならば、本来の弁別刺激は、随伴性の記述自己教示です。

自閉症の子どもの場合、随伴性の記述自己教示が苦手です。そのため、本来の弁別刺激が無いに等しいのです。スケジュール表の支援を無くしてしまうと、弁別刺激が無くなってしまいます。

だから、自閉症の子どもにとって、スケジュール表は(無くしていける)プロンプトではなく、(無くせない)弁別刺激なのです。

「自閉症の子どもは見通しを立てるのが苦手」を行動分析学的に表すと(その2)

自閉症の子どもにスケジュール表を提示すると、その内容に関わらず、その内容の通りに行動するのでしょうか? 専門的な言葉なら、どんな随伴性の記述であっても、行動を自発するのでしょうか? 結論から言うと、それは違います。

  • その随伴性の記述が、本人にとって好ましいことならば、行動を自発します。
  • その随伴性の記述が、本人にとって不都合なことならば、行動を起こしません(行動を自制します)。

例えば、

  • 「宿題をする→おもちゃで遊ぶ」ならば、行動を自発し、宿題を始めます。
  • 「宿題をする」ならば、行動を起こさず、宿題を始めません。
  • 「宿題をする」ならば、行動を起こさず、宿題を始めません。

ところが、健常な子どもの場合、「宿題をする」と言う随伴性の記述を、自分の頭の中で延長して「宿題をする→おもちゃで遊ぶ」と変更する力を持っています。なので、お母さんから「宿題をしなさい」と言われると、渋々かもしれませんが、宿題を始めます。

「自閉症の子どもは見通しを立てるのが苦手」という状況には、示された見通しを自分の頭の中で変更するのが苦手という意味を含んでいます。専門的にいうと、自閉症の子どもは与えられた随伴性の記述を頭の中で変更して好転させることが苦手です。

自閉症の子どもは、スケジュール表で見せられた内容をそのまま理解し、本人にとって好ましい内容ならば、行動を自発します。逆に、不都合なことならば行動を起こしません。

自閉症の子どもと言えども、スケジュール表を使っていると、自分でスケジュール表の上に好ましい内容を追加して、行動できるようになります。

まとめ

  • 自閉症の子どもがスケジュール表を使って行動を自発する行動分析学上のモデルは、スケジュール表に示された行動予定が、随伴性の記述自己教示となり、それを弁別刺激としたルール支配行動である。
  • 自閉症の子どもは自己教示内言タクト)が苦手なので、別の自己教示をすることができず、スケジュール表に示された行動予定(随伴性の記述)が唯一の選択肢になり、その内容に忠実に従う。
  • 自閉症の子どもにとって、スケジュール表の内容は弁別刺激そのものであり、プロンプトのように無くせるものではない。
  • 自閉症の子どもにとって、スケジュール表の内容は唯一の選択肢なので、本人にとって好ましい内容ならば行動を自発するが、不都合な内容ならば行動を自制(拒否)する。
  • 自閉症の子どもでも、自分で計画した内容を自分でスケジュール表上に記載(または絵カードを貼る)ことで、計画どおりの行動をすることができるようになる。

追伸

自分のまとめの意味もあり、ひとまず書き出しました。おそらく今後、修正していくでしょう。

ご意見やご感想ありましたら、遠慮なくコメント欄にお書きください。

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