プロンプトという言葉をご存知ですか?
ABA(応用行動分析)による自閉症の子どもの支援や療育を少し習うと、プロンプトという言葉が登場します。
プロンプトを簡単にいうと、子どもが望まれる行動をなかなかしない時に、その行動を促す補助的な刺激です。
自閉症の子どもの場合、親や支援者がやっているプロンプトをなかなか無くすことができません。無くしたい気持ちは山々ですが。
プロンプトを無くす(フェードアウト)ことについて解説したいと思います。
プロンプトの意味
行動というのは、
- 直前の状況(きっかけ。専門的には弁別刺激)
- 行動
- 直後の環境変化(専門的には強化子)
の流れの中で起こります。
この行動がモタモタしてできない時に、直前に親や支援者が、行動を促すために与える補助的な刺激がプロンプトと呼ばれます。
そして、行動の直後に強化子(具体的には、褒めることや、好きな物)を与えて、次回からの行動の頻度を上げていくわけです。
最終的には、想定されるきっかけ(弁別刺激)だけで行動できることが目標です。徐々にプロンプトを弱めていくこと(そして、プロンプトを無くすこと)をフェーディングといいます。
プロンプトの種類
プロンプトには幾つかの種類に分けることができます。
- 音声プロンプト: 言葉で行動を促す。
- 視覚的プロンプト: 何かを見せる。
- 身体プロンプト: 子どもの手を取って行動を手伝う。
技術的には他にも、プロンプトの種類はあります。上手な支援者は、いろいろなプロンプトを使います。また、習わなくてもプロンプトが上手な人もたまにいます。
支援者はなぜプロンプトを外したいのか?
自閉症の子どもを支援していると、悪い意味で「プロンプト依存」という言葉がよく使われます。本当は、プロンプトをなくしたいんだけど、なかなか無くせない。プロンプト無しでは子どもが行動出来ない状態のことをプロンプト依存と言います。
なぜ私たちは、プロンプトを無くしたいのでしょうか?
- 健常な子どもはプロンプトなしで行動できるから。
- プロンプトは無くすものだと習ったから。
- プロンプトするのがめんどくさいから(支援が大変だから)。
正直、最後のプロンプトする負担が大きいからではないでしょうか?
プロンプトが外せる条件
その行動が身に付いた時、プロンプトは外せます。「プロンプトが外せない」と嘆いている人の多くは、プロンプトとして声かけ(音声プロンプト)はよくしています。しかし、行動後に誉めること(強化子を与えること)を殆どしてません。
以前の私は、行動後の強化が足らないから、行動が身につかない、そしてプロンプトが外せない、と考えていました。でも、そうではないことに気がつきました。
プロンプトの意味を思い出してください:「最終的には、想定されるきっかけ(弁別刺激)だけで行動できることが目標です。」
私たちは、きっかけ(弁別刺激)と補助的な刺激(プロンプト)を区別しています。でも、子どもは両者を区別していません。どちらもきっかけ(弁別刺激)なのです。
私たちが行動を教える時、弁別刺激があって同時にプロンプトを与えます。弁別刺激とプロンプトを対にして提示することを繰り返すと、刺激等価性が生じます。早い話、プロンプトと同じ効果が、本来のきっかけ(弁別刺激)に乗り移っていくのです。そして、プロンプトがなくても、本来のきっかけ(弁別刺激)だけで、行動を自発するようになります。
自閉症の子どもの場合、外せないプロンプトがある
健常な子どもと違って、自閉症の子どもの場合、なかなかプロンプトが外せません。
ここから重要:
実はきっかけとなる弁別刺激には2種類があります。
- 単純な刺激が弁別刺激となる場合(何かが、見える、聞こえる、言われる、など)
- 見通しが弁別刺激となる場合(見通しとは、「これをすれば、こうなる」という自分に対する暗示です。)
ちなみに専門的になりますが、行動分析学では前者の行動は随伴性形成行動、後者はルール支配行動とそれぞれ呼ばれます。
後者が、問題なのです。
健常な子どもの場合、プロンプトとして「これをすれば、こうなるよ」と言われると、自分の頭の中にあるおぼろげな見通しと、プロンプトして与えられた見通しが同時に発生するわけです。繰り返していると、自分の頭の中のおぼろげな見通しは、はっきりするようになります。そして、他の人からプロンプトとして「これをすればこうなるよ」と言われなても、行動を自発するようになります。これが、プロンプト・フェーディング。
一方で、自閉症の子どもの場合。他の人からプロンプトとして「これをすれば、こうなるよ」と言われると、それは弁別刺激として働きます。だから、言われれば行動できます。ところが、自閉症の入門書でも書かれているし、皆さんも実感しているように、自閉症の子どもは見通しを立てることが苦手です。その行動の直前に、自閉症の子どもの頭の中には、見通しのかけらがないのです。すなわち、プロンプトの効果を移転すべき、弁別刺激がないのです。
だから、自閉症の子どもの場合、いつまで経っても私たちが望むような、(プロンプトではない、自然な)弁別刺激→行動→強化、という流れにならないのです。
このように、外せないプロンプトは、外部から支援し続けるしか方法がありません。でも、悲観はしないでくださいね。
どんな支援が望ましいのか?
自閉症の子どもに、見通しが弁別刺激となる行動をさせる方法があります。
皆さんも基本的な支援としてご存じの、スケジュール表を見せることです。
「これをすれば、こうなる」、「こうなったら、次にこれをする」、「その次に、これをする」というのが連なって見えるのが、スケジュール表です。
スケジュール表を使うと、最小限の声かけで、子どもは行動します。スケジュール表の内容を変えると、見えた通りの順番で行動していきます。
まとめ
- 自閉症の子どもに行動を教えている時、なかなかプロンプトが外せないと感じたら、その行動は、見通しが必要な行動です。
- 見通しが必要な行動か、見通しの必要な行動かを判断するのは、普通の人には難しいことです。それよりも、日常的にスケジュール表を使ってください。
- スケジュール表を使うと、これまでやっていた声かけのプロンプトは、かなり少なくて済むと思います。子どもも楽になるし、あなたの支援労力も軽減されます。
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