一部の人だけが、子どもを操ることができた秘密を暴露します。
同じ自閉症入門書を読んだお母さんでも、子ども操ることができるようになったお母さんと、そうでないお母さんに分かれます。その違いは何なのでしょうか?
“操ることができる理由”は、トリッキーですが簡単に理解できます。自閉症の子どもにとって、その理由を知られてしまうと、自分が操られてしまうので、それは秘密にされていたのだと思います。パソコンのセキュリティー・ホールに似ています。今日私はその秘密を暴露します。“操ることができる子ども”と“自立できる子ども”が同じ意味であることも説明します。そして、“言葉では操ることができない”理由もわかるはずです。
しかし、この秘密にたどり着くには、3つの先入観を捨てなければなりません。「言葉で言えばわかる」、「スケジュール表は子どもにわかりやすく情報提供する道具」、「TEACCHの構造化は最も効果が高い」、この3つのことはこのレポートを読む間だけは一旦横に置いてください。
あなたが“子どもを操ることができる秘密”を知ると、たとえしゃべれない重度自閉症の子どもであっても、子どものパニックや癇癪をなくし、生活スキルを養ってあげることができます。
私たちは構造化を間違って習った
TEACCHの構造化で私たちは、「部屋を食事、遊び、就寝などの目的毎に用意すれば子どもの混乱がなくなる(物理的構造化)」、「スケジュール表を使うと見通しが立ち、子どもの不安がなくなる(時間的構造化)」と習いました。
習ったことをやってみて、どうなったでしょうか? すぐに効果が出たでしょうか?
- おやつ、夕食、お風呂、就寝などの、時間帯が一定しましたか?
- おもちゃの片付けが、一人でできるようになりましたか?
- プール、遠足など、好きな予定を待てるようになりましたか?
- 予防接種、歯医者など、嫌いな場所に行く抵抗が減りましたか?
- 急な予定変更でも、パニックにならなくなりましたか?
幸いですが、私の家庭ではちゃんとTEACCH構造化の効果が出ています。私もあなたも療育者も、一生懸命に場所を構造化しました。スケジュール表で予定をわかりやすいようにしました。しかし、子どもの行動に違いが出ます。TEACCHの構造化は、習う人(私、あなた、療育者たち)によって結果が違うという、不安定な療育方法なのです。
私の前回のレポートの要点は、“自閉症の子どもは、頭の中で物事の優先順位をつけることが苦手”、ということでした。
場所やスケジュール表のような子どもの外側を構造化することが最終目標ではないはずです。子どもの頭の中のぐちゃぐちゃとした優先順位を整理することが、構造化の最終目標のはずです。
子どもを操れるようになった人のたった一つの共通点
スケジュール表を始める時期は、子どもが小学校に上がる前、小学校の時、中学校の時、それぞれあります。止める人もいます。私の家庭では小学部の時からでした。スケジュール表を使い続けるご家庭は、お母さんに理由はわからないけれども、スケジュール表で子どもが操れる、スケジュール表で子どもが自立するという結果を実感したからです。
私は、スケジュール表を使い続けているご家庭の共通点に気がつきました。子どもへの愛情の大小ではありません。専門知識の豊富さでもありません。グッズ工作の上手さでもありません。
その共通点は、“子どもがスケジュールボードの操作をしている”、ということがわかりました。
子どもに自分でスケジュールボード上の絵カードを動かすことを教えたお母さんは、皆さん子どもを操れるようになっていたのです。
“操れる子ども”にする3つのステップ
それでは、子どもの行動を操るまでの3つのステップをお伝えします。この3つステップは、各ステップ1週間の合計3週間で歩むことができます。
ステップ1: 優先順位の見える化
まず、子どもがいつも同じ順番でやっている行動に注目します。次に、それと同じ順番をスケジュール表の上で表します。後はこのスケジュール表を見せながら、いつもの行動をさせるだけです。
いつも行動パターンが同じな典型例は、「朝の支度スケジュール」ですね。1週間続けると、子どもは順番は見えるものだとわかり、スケジュール表への警戒感がなくなります。
ステップ2: 見た順番に従うことを教える
スケジュール表で見せた順番どおりに、強制的に子どもを行動させてください。そしてスケジュールの最後にはご褒美をあげてください。
たまに変化のある行動パターンの典型例は、「午後のスケジュール」ですね。子どもはスケジュール表に従うと困りごとが少ないということを経験します。1週間続けると、子どもはスケジュール表の順番どおりに物事が進むことがわかるようになります。
ステップ3: 自分の意思を見せることを教える
子どもに、自分のやりたいことを、自分でスケジュールボード上に絵カードで貼らせてください(または、スケジュール表の上に書かせてください)。
自分の意思を見せる典型例は、1週間スケジュール表(カレンダー)です。子どもにだって、好きなことややりたいことがありますからね。子どもの意思を尊重してあげましょう。1週間もすると、子どもは自分の意思で計画して絵カードをスケジュールボードに貼り、自分でそれを見てそのとおりに行動するようになります。
私の前回のレポートのタイトル「自閉症の子どもにとって、スケジュールボードは自分の頭脳の一部」は、ステップ3を達成した状態のことを言っています。
スケジュールボードが子どもを操る秘密
今説明した3つのステップは、“自立できる子ども”にするステップの間違いではないのか、と思った人も多いと思います。
鋭いですね、その通りです。
自立とは、自分で計画して自分で行動することですよね。自分の意思が入った計画は、他人から命令された計画よりも、良い行動力が生まれます。
健常な子どもは、頭の中で計画と行動をやってのけます。しかし、“自閉症の子どもは、頭の中で物事の優先順位をつけることが苦手”、なので頭の中だけでは計画と行動ができません。そこで、スケジュールボードという場所を使って、スケジュールボード上に計画を置き、そのスケジュールボードを見て行動するのです。
ところが自閉症の子どもは、スケジュールボード上のそれぞれの内容が自分の意思によるものなのか他人の意思によるものかの区別が苦手です。そのため、誰が置いた絵カードであろうと、子どもはスケジュールボード上の順番に一生懸命に従います。やりたくない行動の絵カードが置いてあっても、子どもはその絵カードを無視するのではなく、そのことを頑張ってやろうとします。
健常な子どもにとってスケジュール表は命令ですが、自閉症の子どもにとってスケジュールボード上の順番はもはや洗脳に近いのです。自閉症の子どもに対してあなたが言葉ででできるのは命令までです。あなたの言葉で洗脳することはできません。
パソコン風に言い換えてみましょうか。健常な子どもは、頭の中に自立回路を持っています。自閉症の子どもでも、頭とスケジュールボードを使って、自立回路を持つことができます。しかし自閉症の子どもの自立回路には、スケジュールボードを使って他人が操作できるというセキュリティー・ホール(危険な落とし穴)があったのです。
なぜ誰もこの秘密に気づかなかったのか
ステップ2レベルだと、スケジュール表は命令として働きます。ステップ3レベルだと、スケジュールボードは洗脳として働きます。命令と洗脳では雲泥の差がありますよね。
しかし、入門書やセミナーや論文で見ることができるスケジュール表の事例や写真からは、たとえ本人の写真があったとしても、子どもが命令で行動しているのか、洗脳で行動しているのかの区別はできません。そもそも、洗脳という発想をする人がいなかったので、ステップ3が存在することを多くの人が知りません。そのために、ステップ2の見た順番に従うことを教え、ある程度それができるようなったところで満足してしまったようです。
加えて、ステップ3の自分の意思を見せることを教えるには、道具の課題がありました。子どもが簡単に操作できるスケジュールボード(または、子どもが簡単に書き込めるスケジュール表)は、その準備にとても手間がかかっていたのです。
ステップ3まで進んで初めて私たちは、スケジュールボードの効果が急激に上がり、“子どもが自立すること”と“子どもを操れること”に気がつくのです。
このレポートでは、“子どもを洗脳して操る”という過激な表現を使いました。“洗脳”とか“操る”という言葉を使っている入門書やセミナーはありません。もし、そんな言葉を使った入門書やセミナーがあったら、もっと多くの人がステップ3へ進めようとしたのではないでしょうか?
あなたは子どもを操りたいですか?
次の例は、ほんの一部にすぎません。
- おやつ、夕食、お風呂、就寝などの時間帯が一定します。
- おもちゃの片付けも一人でできるようになります。
- プール、遠足など、好きな予定を待てるようになります。
- 予防接種、歯医者など、嫌がる所へ行くことの抵抗が減ります。
- 急な予定変更で、パニックになることは無くなります。
そのように「自立できる子ども」ならば、もう“操る“必要がないことに気づいてください。
子どもにスケジュールボードの使い方を教えたお母さんは、皆さん同じような状況を経験しています。“子どもがスケジュールをキッチリ守る”、“一人でできることが増えた”、“自分で予定を計画する”、“気がつくと、パニックや癇癪がなくなっていた”。
あなたの家庭でも“スケジュールボードというお子さんの頭脳”を準備してあげてください。
古林紀哉
コメント
自分の意思をスケジュールボードに見せる具体的な方法を知りたいです。
絵カードなどで○○くださいなどのコミュニケーションは図れますか?
まず、お子さんの意思の候補となるものの絵カードを準備してください。
例えば、「じゃがりこ」、「スパゲティー」。とか、「絵本」、「ミニカー」。など、
いくつかの絵カードを同時に子どもに見せて、自分で選んだ絵カードをスケジュールボードに貼らせます。
そしたら、その絵カードの物を子どもにあげる。または、その活動をやらせてあげる。
これでOKです。
最初は、2枚の候補の絵カードから始めましょう。
こんなの絶対に選ばないよなぁという絵カードが混じっていても構いません。
「じゃがりこ」と「勉強」どっちにする? なんてね ^-^
候補となる絵カードをいくつも準備しておくのが、鍵ですよ。
また、
「○○ください」のコミュニケーションを図るのは、スケジュールボードではなく、
絵カードブックやPECSの出番です。