「手のつけられない子ども」とはもう言わせない!
この弱点を持っているために、自閉症の子どもには「子どもを扱いにくくする」いろんな特性が見られます。多くの療育者は、自閉症の子どもの特性に注目しながら、子どもの生活スキルを伸ばしたり、子どもの問題な行動を抑えたり、をしてきました。しかし、たった一つの重大な弱点を見過ごしている限り、「手のつけられない子ども」であることに変わりはありません。私の三男は自閉症です。積極的に彼の家庭療育をしてきましたが、私も重大な弱点を見過ごしていた一人でした。
この弱点を補う方法は、今のところは「スケジュール表」しかありません。しかしスケジュール表はただ使えば良いというものではなく、多くの療育者は子どもの力を出し切れないでいます。
子どもの困りごとをなくし、生活スキルをつけ、問題な行動を抑えたいなら、自閉症の子どもの重大な弱点を知り、スケジュール表がどのようにその弱点を補っているかの秘密を知ってください。
あなたがスケジュール表の秘密を知ると、たとえしゃべれない重度の自閉症の子どもであっても、子どものパニックや癇癪をなくし、生活スキルを養ってあげることができます。
たった一つの重大な弱点とは
あなたの子どもの手のつけられない状況を思い出してください。
- 欲しいものが手に入らないと泣きわめく。
- 嫌なことがあると物を投げたり、奇声を上げたりする。
- 一度「やりたい」と言い始めると、叶うまで言い続ける。叶えてあげないと癇癪を起こす。
- お母さんの都合で、行き場所を変更したり、順序を変えたりすると、パニックになる。
正直に言うと私の家庭でもそのようなことが多くありました。子どもが荒れないように、できるだけ外出をしないようにし、一度言い出したら(と言っても三男はしゃべれないので、絵カードで要求してきます)、子どもの要求を直ぐに叶えてあげていました。
自閉症の子どもがパニックになる状況は、
- 突然の変化に戸惑う
- 何をすればいいかわからなくて混乱している
- お母さんとうまくコミュニケーションが取れない
と言われています。
この状況がわかってても、対処は難しいものです。この状況の奥には、自閉症の子どもの重大な弱点が潜んでいるのです。
それは、“自閉症の子どもは、頭の中で物事の優先順位をつけることが苦手”、なことです。
言い換えると、“自閉症の子どもは、一番やりたいことだけが頭の中にあり、その他のことを頭の中で考えることができません”。
そう考えると納得がいきませんか?
- 一度欲しいと思うと、そのことだけが頭の中にあり、手に入らない理由は理解できません。
- 今何かをしている時に、嫌なことが起こり、それが中断されると、中断が理解できません。
- 行くはずの場所が、誰かの都合で変更になっても、誰かの都合は理解できません。
そして、
- 一度何かを始めると、それだけが頭の中にあり、飽きるまで何時間でもやり続けます。
例え子どもがしゃべれて、言われていることを理解できるとしても、
“自閉症の子どもは、頭の中で物事の優先順位をつけることが苦手”、です。
この弱点が克服できたら、「手のつけられない子ども」が一変します
もしも、あなたの子どもが頭の中で、物事の優先順位をつけることができたら、どんなことが起こるでしょうか?
- 一度何かが欲しいと思った時、それが今手に入らない理由と、欲しいものがいつ手に入るかを理解できると、子どもが泣きわめくことはありません。
- 嫌なことが起こっても、なぜしていることが中断されたのかと、いつ今までのことを再開できるのかが理解できると、物を投げたり、奇声を上げたりすることはありません。
- 行くはずの場所が、誰かの都合で変更になっても、優先順位を理解していると、パニックになることはありません。
子どもが物事の優先順位を理解すれば、「手のつけられない」状況は、もう起こらないのです。
自閉症の子どもの弱点を克服する方法
ではどうやったら、“自閉症の子どもが、頭の中で物事の優先順位をつけることができる”、ようになるでしょうか?
- 薬を処方しても、“頭の中で複数の物事の優先順位をつける”ことができるようにはなりません。
- 幼少期に子どもの認知スキルや生活スキルの向上に効果の高いABA(応用行動分析)療育でも、”頭の中で複数の物事の優先順位をつける”、力を養うことは出来ません。
- 言葉で教えてあげても、30秒も経つと聞いた優先順位は頭の中から消えていきます。
今知られている唯一の方法は、“子どもに順番を見せてあげる”、ことなのです。
子どもに、複数の物事の優先順位を見せてあげる道具が、スケジュール表やカレンダーなのです。この方法が「スケジュールと視覚支援」と呼ばれています。
なぜ多くの療育者は「スケジュールと視覚支援」で成果が出ないのか
あなたも、絵カードやスケジュール表のことを知っていると思います。多くの療育者が絵カードとスケジュール表を使っています。
しかし、スケジュール表と視覚支援で成果を出しているのは一部の人にすぎません。
- 絵カードを見せるだけで、子どもが動くようになることはありません。
- スケジュール表を見せるだけで、多動な子どもが落ち着くことはありません。
成果が出ないのは、“絵カードとスケジュール表は、しゃべれない子どもへの情報提供の道具”だと思っているからです。自閉症の子どもの本当の弱点を意識せず、スケジュール表がどのようにその弱点を補っているかの秘密を知らないと成果は出ません。
自閉症の子どもにだけ効くスケジュール表の秘密
一時期「スケジュール表は自閉症の子どもをロボットのように扱う」と批判されたことがあります。療育者がスケジュール表を上手に使うと、自閉症の子どもはスケジュール表には絶対に逆らわないので、そう批判されたのだと思います。
なぜ、自閉症の子どもはスケジュール表に逆らわないのでしょうか?
その秘密は、“自閉症の子どもは、スケジュール表に逆らう能力を持っていない”ことなのです。
もしも、スケジュール表に逆らいたい(=スケジュール表と違う動きをしたい)と思ったら、子どもはスケジュール表の内容と自分がやりたい内容を頭の中で比べて優先順位をつけなければなりません。健常の子どもはそれができます。しかし、自閉症の子どもは頭の中で物事の優先順位をつけることが苦手なため、スケジュール表で見せられた内容ともう一つの内容を頭の中で比べることができません。そして、スケジュール表の内容が優先されてしまうのです。
スケジュール表が物事の順番を見せてくれる便利なもので、その順番に従っていれば生活の困難が少なくなり、最後にご褒美が貰えるという経験をした自閉症の子どもは、スケジュール表をきっちりと守り、もはや逆らうことはありません。
自閉症の子どもにとって、スケジュールボードは自分の頭脳の一部
子どもにスケジュールボード上で、自分で絵カードを並べることと、自分のやりたいことの絵カードを置くことを教えてあげてください。最初は子どもの手をとって教えてあげてください。子どもは、自分でやりたいことの意思表示をスケジュールボード上で行い、その内容どおりに行動するようになります。
すなわち、物事の優先順位を自分でスケジュールボード上に示して、自分でスケジュールボード上の順番に従います。
もはやスケジュールボードは、他人からの情報提供の道具ではなく、自閉症の子どもにとって、スケジュールボードは自分の頭脳の一部なのです。
自閉症の子どもにとってスケジュールボードは、学習机やランドセルよりも遥かに重要な役割を持っているのです。
物事の優先順位を自分で決め自分で行動ができると
あなたにも、もうお分かりだと思います。「手のつけられない子ども」だったのが、スケジュール表やカレンダーを使うことで、「自立できる子ども」になることが。そして、そうなる方法が今のところはスケジュール表以外にはないことも。
次の例は、ほんの一部にすぎません。
- おやつ、夕食、お風呂、就寝などの時間帯が一定します。
- おもちゃの片付けも一人でできるようになります。
- プール、遠足など、好きな予定を待てるようになります。
- 予防接種、歯医者など、嫌がる所へ行くことの抵抗が減ります。
- 急な予定変更で、パニックになることは無くなります。
私の家庭でも、三男に積極的にスケジュール表とカレンダーを使い始めてから、「手のつけられない状況」は激減しました。三男はスケジュールボード上でやりたいことを意思表示します。
子どもにスケジュールボードの使い方を教えたお母さんは、皆さん同じような状況を経験しています。“子どもがスケジュールをキッチリ守る”、“一人でできることが増えた”、“自分で予定を計画する”、“気がつくと、パニックや癇癪がなくなっていた”。
あなたの家庭でも“スケジュールボードというお子さんの頭脳”を準備してあげてください。
古林紀哉
コメント