家庭内暴君とは – 自閉症の特徴

父と息子の対立、家族の問題

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家庭内暴君(かていないぼうくん)とは、家庭内で家族を苦しめる迷惑行為や言動や非協力的行為をする子どもや成人を表す言葉です。特に、自閉症スペクトラムの子どもが起こす様々な問題行為が家族を苦しめることから、そのように比喩的に用いられます。日本語としては2018年に現われた造語で、広い意味では知的障害を伴って問題行為をする子どもや認知症を伴って問題行為をする高齢者に用いられます。思春期以降は暴力行為を伴うことがあります。ただし、「家庭内暴力」とは異なり、暴力行為を伴わない子どもや高齢者も含まれます。暴君ぶりを発揮するターゲットは、子どもの母親や介助者となることが多いです。

肘掛け椅子に叫んで怒っている子供の癇癪

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なぜ「家庭内暴君」と呼ぶ必要があるのか?

これまでも自閉症スペクトラムの子どもの特徴を表した言葉はありました。代表的な特徴は次の3つです。

  • 社会性や対人関係の問題
  • コミュニケーションの問題
  • 想像力の問題と活動の偏り

それ以外にも自閉症スペクトラムの典型的な特性として、次のようなことがあげられます。

  • 人の気持ちを読むことができない
  • 代名詞や曖昧な言葉がわからない
  • 突然の変化が苦手である
  • 急にパニック(癇癪、泣きわめき、暴れ、自傷行動、他害行動など)になる
  • 感覚機能がアンバランスで、とても苦手な刺激もあれば、鈍感な部分もある
  • 規則的なこと、記憶的なこと、視覚的なことに特別な能力を発揮する。

ところが、自閉症スペクトラムの子どもを育てているお母さんが経験する苦悩は、このような特徴では言い表すことができません。家庭内で起こっている深刻な状況を説明する言葉がないので、専門家に相談してもなかなかわかってもらえません。お母さんの苦悩を理解できるのは、同じように自閉症スペクトラムの子どもを育てた経験のあるお母さんだけでした。

子どもの状況をうまく説明できないと、正しいアドバイスがもらえません。だから、お母さんや専門家だけでなく、一般の人にも想像できる言葉が必要なのです。直感的な言葉で、子どもの特徴とお母さんの苦悩を表す言葉が必要なのです。

これまでも、「拘り(こだわり)」という言葉が使われてきました。「拘り」とう言葉は、自閉症スペクトラムの子どもの特徴を的確には示していません。たとえ、「過度な拘り」、「異常な拘り」と言ったとしても、その言葉からイメージする状況と、子どもがお母さんを悩ませ続けている状況は、違うものなのです。

家庭内暴君の特徴

家庭内暴君には、二組の特徴があります。

  • 迷惑秒速・世話牛歩(めいわくびょうそく・せわぎゅうほ)
  • 偏好激求・偏嫌激拒(へんこうげっきゅう・へんけんげっきょ)

これらの言葉は、自閉症スペクトラムの子どもの特徴を表した造語です。

迷惑秒速(めいわくびょうそく)
お母さんや他の人に迷惑をかけることは、子どもはあっという間にやってしまいます。鏡台に置いていたお母さんの化粧品を知らないうちに、グチャグチャにします。届き物の箱をリビングに置いておいたら、子どもは帰って来るやいなや箱の包みを破いてしまいます。外で水たまりを見たら、走って水たまりに入ります。スーパーで気を抜いたら、売り物の果物に指を突込みます。その時にキツく叱っても、同じ状況になるとまたやらかします。

世話牛歩(せわぎゅうほ)
お母さんや介助者が身の回りの世話をしてあげている時は、子どもの動きは牛のようにのろいです。子どもが着替えができない頃は、お母さんが着替えをさせていました。少し大きくなると、自分で着替えることができるようになります。にも関わらず、朝の着替えをお母さんが声かけしても、子どもは動きません。お母さんが手伝っても子どもは嫌がって、なかなか着替えが進みません。夜お母さんは、子どもをお風呂に入れようとします。子どもはミニカーで遊び続けていて、なかなかお風呂に入ろうとしません。お母さんが無理に進めようとすると、癇癪やパニックを起こします。

偏好激求(へんこうげっきゅう)
偏った好みを激しく求めます。急に何かを欲しくなります。例えば、「ポテトチップス(のり塩味)」が欲しくなって、お母さんにせがみます。「なくなったので、ポテトチップス(バーベキュー味)で我慢して」と言っても、子どもは「のり塩味じゃなきゃ嫌だ」と言います。子どもはそう言い続けます。そのうち、子どもは癇癪を起こします。別の例では、家族でファミリーレストランに行きました。子どもはレジ横のおもちゃコーナーでミニカーを見つけました。ミニカーを買ってあげないと、子どもは暴れまくります。

偏嫌激拒(へんけんげっきょ)
偏った嫌がりを激しく拒みます。教室で外から誰かが扉を開けると、子どもは教室から一目散に逃げ出す。パンは食べるけど、給食のパンは絶対に食べない。外出先でハンドドラヤーのあるトイレには絶対に入らない。病院には行けるけど、診察室に入ると10秒も耐えられず、押さえつけても逃げ出す。コンビニへの買い物は付いて来てくれるけど、スーパーへの買い物には絶対に付いて来てくれない。などなど。

普通の子どもの場合、このような状況でもお母さんが言い聞かせてあげると、素直に従ってくれます。ところが、自閉症スペクトラムの子どもは、「しまいにギャーギャー」、「挙げ句の果てには、癇癪・パニック」です。

お母さんにとって、やらないでもいいことをやらかして、やって欲しいことはビクとも動かない。好きなことには無我夢中で、嫌いなことからはとにかく逃げ出す。この両極端な特性を併せ持っていることが、自閉症スペクトラムの厄介な特徴です。

家庭内暴君が顔を出さないようにするヒント

残念なことに、自閉症スペクトラムの子どもが引き起こす、迷惑秒速・世話牛歩も偏好激求・偏嫌激拒も治す方法は見つかっていません。でも、安心してください。

家庭内暴君がお母さんを苦しめる厄介な特徴が、顔を出さないようにする方法はあります。自閉症スペクトラムの子どもをうまく育てて来たお母さんたちは、みなさんそれをやって来ました。

迷惑秒速(めいわくびょうそく)への対応ヒント
子どもは好きな物を見た瞬間に、それに突進して行きます。だから、好きなものが目の前にある状況を作らないようにしてください。

世話牛歩(せわぎゅうほ)への対応ヒント
子どもにやって欲しいことをすんなり進めるには、「それをやったら、あなたの好きな○○ができるよ!」と見せて教えてあげてください。

偏好激求(へんこうげっきゅう)への対応ヒント
子どもが求めていることを禁止することはできません。しかし、時と場所が違えば、子どもの求めていることも迷惑行為にはなりません。だから、「今は出来ないけど、□□になったらできるよ!」と見せて教えてあげてください。

偏嫌激拒(へんけんげっきょ)への対応ヒント
子どもが嫌いなことでも、どうしてもやらせないといけない状況はよく起こります。そんな時は、「それをやったら、あなたの好きな○○ができるよ!」と見せて教えてあげてください。

お母さんや支援者がこのような対応が出来るようになると、子どもが家庭内暴君と呼ばれるような行為をすることは無くなります。ただし、見せないで言葉だけで教えてあげても、お母さんや支援者を困らせる状況は治りません。

家庭内暴君が顔を出さないようにする最初の一歩は、子どもに見せて教えてあげる道具を準備することです。