自閉症支援のPECSは絵カードブックがいいのかアプリがいいのか?

自閉症支援の絵カードブック バインダー vs アプリ 絵カード

5歳の喋れないお子さんのお母さんから、「古林さんがPECSでは、アプリをお勧めしてない理由を教えてください。」と問い合わせがありました。理由はいろいろあって長くなりそうなので、記事にすることにしました。

私は、絵カードアプリに弊害があると言っているわけではありません。おすすめは、

  • PECSの利用は、絵カードブックを中心する。
  • ご家庭に、余力があればアプリも併用する。

です。

絵カードアプリは、魅力的に感じます。私もそうでした。アプリは携帯性に優れ、外出時の持ち運びが容易。そして、音が出る(自動読み上げ)ことですね。

絵カードブック(PECS)の本来の使い方

コミュニケーションの支援用と言われますけど、コニュニケーションは双方向です。

  • 子どもから → 大人へ:内容のほとんどは、子どもの欲しい物の要求です。(主にPECSを使う)
  • 大人から → 子どもへ:内容のほとんどは、行動の指示や命令です。(主にスケジュール表を使う)

子どもに絵カードブック(PECS)を使わせる場合の重要な機能、そして殆どの場面は、子どもに今欲しいものを絵カードを使って要求させることです。「じゃがりこ、ください。」「ミニカーで遊びたい」。

子どもが絵カードブック(PECS)を使う手順

絵カードブックは、本体(バインダー)、ページ、文章バー、絵カード、で構成されてます。

  1. 絵カードが貼ってあるページを開く。
  2. 所望の絵カード(通常は2〜3枚)を、文章バーに移動させて、文章を作る。
  3. 文章バーを、相手に見せる。

ここで相手が、お母さんや先生のような指導者ならば、見せられた指導者は、子どもの前で、文章バーに貼られた絵カードの内容を読み上げます。例:「お母さん・じゃがりこ・ください」。

そして、お母さんは、「じゃがりこ」を子どもにあげます。

絵カードブック(PECS)を使わせる前の準備

先ほどは、「じゃがりこ」の例でした。子どもが要求するような物、例えば、ご飯、おやつ、ラーメン、お茶、ミニカー、ブロック、などなどの絵カードは予め準備しておく必要があります。

これらは、子どもが使う語彙のような物です。最初は、10個とか20個ですが、あっという間に100個ぐらいは必要になります。

もしも「じゃがりこ」の絵カードがないと、じゃがりこが欲しくても要求できません。だから、この語彙が揃っているかどうかは、子どもにとっては死活問題なんです。

絵カードブック(PECS)の他の使い方

別の使い方は、「大人から → 子どもへ」が殆どです。

  • これから起こることの予告に絵カードを子どもに見せる
  • 絵カードを複数枚見せて、どちらが良いか子どもに選ばせる。

他にもいろいろあると思いますが、この辺りは状況に応じた手助け的な意味合いが大きいと思います。

大人から子どもに、確実に指示を通そうとすると、「スケジュール表」を使う必要があります。この内容は、今回は割愛します。

子どもに日常的に絵カードブック(PECS)を使わせるための努力

子どもがPECSを使う場面で、適切にPECSを使う為には、下記の二つのことが必要です。

  1. 子ども自身の近くに、絵カードブック(PECS)があること。
  2. その絵カードブック(PECS)には、絵カード=語彙が揃っていること。

我が家の重度自閉症の三男君は(現在22歳)、7歳の頃からPECSをやっていました。我が家には絵カードブックが4セットぐらいありました。

  • 食卓の近くに置いていた絵カードブック
  • リビングに置いていた絵カードブック
  • 携帯用の絵カードブック(外出時や、療育教室に通うときに使用)
  • 特別支援学校の自分の机にぶら下げていた絵カードブック

要するに、我が家の三男君の近くにはいつも絵カードブックが存在していたのです。あともう2箇所を忘れるところでした。私のiPhoneと家内のiPhoneには絵カードアプリが入っています。

三男君が絵カードで何かを要求するときは、自分の近くにある絵カードブックを使っていました。そして、両親のiPhoneに絵カードアプリが入っていることも知っているので、iPhoneを使わせようとすることもありました。でも、最も頻度が高いのは、アプリではなく従来の絵カードブックです。

もう一つの努力は、絵カードの作成です。

我が家では、ほぼ毎週のように絵カードを増やしていました。合言葉は、「1個作る時は、同じものを何個か作る」「一度に沢山の種類を作らない」の2つ。

絵カードブックは何冊もあるし、絵カードがなくなることもあるので、必ず複数枚作ってました。そして、一度にたくさん作ってしまうと、次回の腰が重くなるので、その時時で必要な絵カードだけを、さっさと作っていました。

現在でも絵カードは、適宜増やしています。今では、2,000枚ぐらいの絵カードがあると思います。

絵カードアプリの特性

私が見ているに、絵カードアプリには2つのタイプがあります。アプリのタイプというよりも、企画者・開発者のタイプと言っていいと思います。

  1. PECSをよく理解している人が、絵カードブック(PECSブック)と同じ機能をアプリ化しよとする。
  2. PECSの理解が乏しい人が、独自の絵カードアプリを作る。

一時期は、2のタイプのアプリもいくつか出回りましたが、自閉症支援としては殆ど使われていないと思います。2のタイプは、どちらかというと支援者が子どもに見せることが中心です。でも、PECSの真髄は、子どもが絵カードで文章を構成することです。だから、子どもが使うことを中心に設計する必要があるのです。

子どもが使う、絵カードブック(PECSブック)をアプリで再現するとなると、

  • 複数の絵カードを一覧して選ぶためのページ(複数)【子ども用】
  • ページから文章バーに絵カードを移動させる機能【子ども用】
  • 新しい絵カードを追加する機能【支援者用】

最低限、それらの機能が必要になります。

それらの機能を開発して入れ込むことは、結構難易度が高いのです。iPhoneのような限られた面積の画面に、それらの機能を入れ込むのは、とてもハードルが高いです。

PECSの本家である、ピラミッド教育コンサルタント社は、iPad向けにPECSアプリを出しています。アプリ名は、”PECS IV+”。アプリとしてはよく出来ていると思います。裏を返すと、それ以外にまともな絵カードブック(PECS)アプリはないんじゃないかなぁ。

我が家がPECSアプリを諦めた経緯

実をいうと、我が家の重度自閉症の三男君にiPad & PECS IV+ を特別支援学校に持って行かせようと、チャレンジしたことがあるのです。15歳の時だったと思います。公費でタブレット端末を購入することができたのです。

自宅で、iPadとPECS IV+をセットアップして、特別支援学校の先生方に使ってもらおうとチャレンジしました。結果は、私が3ヶ月でセットアップをギブアップしてしまいました。学校には、持ち込みができませんでした。

ハードルその1:IDのセットアップ

私自身のiPhoneやiPadのセットアップは、買い替え毎にやっていたことなので、比較的簡単です。なので、新しいiPadを私のApple IDでセットアップするのは容易だったと思います。

でもそうしてしまうと、私のアプリとSNSとか写真とかが、そのiPadにも自動共有されてしまうので、それは避けたいところ。そこで、三男君専用のApple IDを作ることにしました。

家族といえども、他人のApple IDを作るのはなんと大変なことか!

ハードルその2:絵カードデータの入れ込み

今度は、PECS IV+のセットアップです。アプリをダウンロードしただけでは、絵カードアプリとしては未だ機能しません。普段使っている絵カードのデータを、PECS IV+アプリに入れ込む必要があります。

最低でも100枚は入れ込まないと、使い物になりません。

従来から作っていた絵カードの元データはあるにはあるのですが、必要な時に必要なデータを集めて作っていたので、整理されていません。データの入れ込みが苦痛で苦痛で・・・。

ハードルその3:本当の目的ってなんだったけ?

本当の目的は、三男君にアプリを使ってもらうことではありませんでした。

我が家以外の方、そしてPECSをあまり知らない方のところに行っても、三男君が絵カードブック(アプリ含む)を使えるようにするのが、本来の目的でした。

外部の人に、新しい絵カードを作ってもらうことや、新しい絵カードをアプリに入れてもらうことは、期待できません。これまでも、学校の先生に「足らない絵カードを教えてください。作って子どもに持たせますので」というやり方でした。

アプリを使うメリットが感じられない。そして、3ヶ月後に頓挫してしまいました。

PECSの指導方法を知っている人は少ない

この記事ももうそろそろ終わりです。

残念なことに、特別支援学校の先生方も、最近できた自動発達支援のスタッフの方も、知的障害者が通う施設の方も、PECSの指導方法をちゃんと知っている方は少ないのが健常です。

PECSの本家である、ピラミッド教育コンサルタント社は、定期的にPECS講習会を開催しています。(ここ最近は、ネットでも受講できます)。

絵カードは見た目が幼稚?なので、PECSの威力を正しく知っている人は、専門家でも多くはありません。一度PECSコースを受講して習うと、目から鱗ですね。ある程度の支援知識は必要だけど、こんなに、重要で、こんなに効果があるなんて。喋れない自閉症の子供の支援には、なくてはならないツールです。

PECSアプリを使いこなしているご家庭とは?

SNSが当たり前になった最近では、時々、自閉症のお子さん向けに、PECSアプリを使いこなしているご家庭を見受けます。私が思うに、そんなご家庭の特徴は、

  • ピラミッド教育コンサルタントのPECSベーシックコース2日間をちゃんと受講している。
  • 絵カードブック(PECS)は、従来の物理的な絵カードブックで始めている。
  • ITに強い。iPhone、iPad、ガジェットが好き。
  • 絵カードブックとアプリを併用している。

そして、現在の中心はアプリになっている。

ようするに、PECSを知り尽くして、時間をかけて結果的にアプリを使いこなしている、という感じです。

まとめ

なんだか、そこはかとなく書いしまって、まとまったようで、まとまっていない記事でしたね。

私は絵カードアプリが悪いと思っているのではありません。が、アプリに過度な期待をしないでほしいというのが正直なところです。

それより先に、PECSをもっとよく知ってください。コミュニケーションは双方向です。PECSは子どもから大人向けです。大人から子ども向けのスケジュール表のことも知ってください。

その上で、あなたがアプリが得意ならば、アプリも重要な選択肢として活きてくるでしょう。

蛇足

私は、私の会社は、「コバリテ・コミュニケーション」というiPhone/iPad用の絵カード・アプリを開発して提供しています。ノリノリで開発したものの、出来栄えはイマイチだっと反省しています。だから、今はほとんど勧めていません。どちらかというと、主製品の「コバリテ視覚支援スタートキットII」の知名度向上の目的の方が強かったと思います。

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