自閉症の子どもたちの行動や特徴は多くの人に知られていますが、これらの特性の根底には、より深い共通点が存在します。
これまでの3回の記事では、「知的な遅れ」の根底についてお話ししました。今回からは、「社会性の問題」に話題を移して行きます。
「社会性」というと漠然とし過ぎているので、簡単な例から少しずつお話しします。今回の話題は「待つことが苦手と癇癪」です。待つことも重要な社会性の一つなんですね!
冒頭で言った、自閉症の特性の根底にある深い共通点とは、自閉症児は目に見えないものを心で描く「想像力」が十分に働かないという点です。普通に待つためには、実は想像力が必要なのです。
待てないと何が起こるでしょうか? はい、周りの人から注意されます。それでも待てないと、子どもはもっと注意されます。そして子どもは癇癪を起こしてしまいます。
待つとはどういうことなのか?
待つという行為を分解して考えてみましょう。
- 欲しい物ややりたい事が目の前にある、または、欲しい物ややりたい事が頭の中に浮かぶ。
- 一定時間、それが手に入らない。または、それができない。一定時間には、30秒のこともあれば、1時間のこともあれば、1日や、1週間の場合もあります。
- 最終的に欲しかった物が手に入る。または、やりたかったことができる。
そういう感じです。この中で3番が重要です。もし3番がなければ、時間が経過しても欲しかった物は手に入らないという結果になります。それは、欲しかった物を諦めることになってしまいますからね。
ちなみに、自閉症の子供は「諦めること」も苦手です。今回は「諦める」ことには触れないで、「待つこと」だけにフォーカスします。
普通の子どもが物事を待てる過程
今回は、「子どもがお腹が空いて、おやつが欲しくなった」状況を例にします。
今は午後2時半としましょう。このご家庭ではおやつの時間は午後3時と決まっています。お母さんが午後3時と決めています。
先ほどの待つ行為に当てはめると、こうなります。
- おやつの事が頭に浮かんで欲しくなった。お母さんにおやつを頼んでみた。(お母さんは、「午後3時まで、あと30分待ってね」と言いました。)
- 30分間、おもちゃで遊びました。
- 午後3時に、お母さんが出してくれたおやつを食べました。
皆さんには、当たり前の事と思えると思います。
それを深く探ると2番のところで、普通の子供には自然に無意識に「想像力」が働いているのです。
- いずれ(30分後に)、おやつが食べれるという認識。→ そのことで安心感を抱きます。
- 今は(これから30分は)、おやつが出てこないという認識。→ そのことで要求を自制します。
そして、子供は何か代わりの物が無いかと想像力を働かせます。代わりの物を想像した結果、おもちゃを選び、おもちゃで遊びます。
そして3番です。当初想像した「いずれおやつが食べられる」という状況が、午後3時に現実になります。
待ち時間が短くても、待ち時間が長くても(例えば、翌日)、待つためには頭の中に「いずれ、得られる。それができる」という思いが必要なんです。
自閉症の子どもに物事を待たせる状況
同じように、自閉症の子どもが2時半ごろに、おやつが食べたくなったとしましょう。
- おやつの事が頭に浮かんで欲しくなった。お母さんにおやつを頼んでみた。(お母さんは、「午後3時まで、あと30分待ってね」と言いました。)
ここまでは、自閉症の子どもも普通の子どもも同じです。
おそらく、自閉症の子どもは再び「おやつちょうだい」とお母さんに言うでしょう。お母さんは、「午後3時まで待って」と再び言います。それでも1分後には、子どもは再び「おやつちょうだい」というでしょう。もしかすると、子ども自身でおやつが入ってる棚を探すかもしれません。
そんな押し問答が続くと、子どもは癇癪を起こしかねません。だから、お母さんのほうが折れて、午後3時になる前に、おやつを子供に与えてしまう光景が目に浮かびます。
自閉症児は目に見えないものを心で描く「想像力」が十分に働かないという特性を持っています。
例え、お母さんに「午後3時になったら、おやつが出てくるよ」と言われても、子どもは頭の中にそれを保持することすら苦手です。
自閉症の子どもの頭の中にあるのは、「おやつが欲しい」という思いだけです。そして、おやつを要求し続けます。
自閉症の子どもに物事を待たせる支援
子どもに物事を待たせる、または待ってくれるためには、「いずれ、得られる。それができる」という思いが頭の中に必要です。
自閉症の子どもは、「いずれ、得られる。それができる。」という思いを自分で頭の中に描くことが苦手です。なので支援としては、「いずれ、得られる。それができる。」ということを見せて伝えるわけです。
具体的には、絵カードを使って
- おもちゃ
- おやつ
という順番を見せてあげます。
そうすると、「おやつ」という絵カードが見えているので、自閉症の子どもも「いずれ、おやつが出てくる」という認識を頭の中に描きます。そして安心します。しばらくの間は、おやつの要求をしないで、おもちゃで遊んでいると思います。
適切な支援への道:絵カードを使ったスケジュール表とカレンダーの利用
自閉症の子どもの支援は、「絵カードを使ったスケジュール表とカレンダーの利用」から始まり、それを日常的に継続利用していれば、ほとんどの問題は解決します。
「絵カードを使ったスケジュール表やカレンダー」によって、1日のスケジュールや1週間の予定を見せてあげましょう。そこには、子どものやりたい事が、いつできるのかが一目瞭然になっています。
子どものやりたい事が、いつできるのかが見えていると、安心して他のことができます。もしも、子どもの頭の中にやりたい事が湧いてきたら、子どもは自分でスケジュール表やカレンダーに目をやります。いつ得られるのか、いつ出来るのかがわかると、子どもは安心して、その時が来るのを楽しみにして、待ってくれます。
おわりに
今回は、「想像力の不足」とそれが「物事を待つこと」に影響を与える状況についてお話ししました。
「自分が欲しい物事を待つこと」は社会的な行動の重要な一歩です。家庭は小さな社会の始まりです。家庭の中で、子どもがスムース行動し、他の家族に迷惑をかけない行動を支援したいものです。
次回も家庭内の社会的な行動について、子どもの「想像力の不足」を補いながら支援していくことについてお話ししたいと思います。
私と一緒に適切な支援に向けて、成長していきましょう。
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