自閉症の子どもたちの行動や特徴は多くの人に知られていますが、これらの特性の根底には、より深い共通点が存在します。それは、目に見えないものを心で描く「想像力」が十分に働かないという点です。この「想像力の欠如」は、日々の生活における多くの挑戦の根源となっており、自閉症の子どもたちが直面する困難の多くを説明しています。
前回の記事では、自閉症の子どもたちが経験する生活スキルの獲得の遅れに焦点を当てました。今回は、そのスポットライトを運動の苦手さに向け、この問題がなぜ発生するのか、そしてその背景にある想像力の欠如について深く掘り下げていきます。
想像力の支援の重要性
想像力の育成に関しては、一つ肝に銘じておくべき点があります。想像力は、訓練や練習を通じて大幅に伸ばすことは困難です。一定の進歩は見込めるものの、根本的な改善を遂げることは難しいのが実情です。
そこで、私たちにできる「想像力の支援」とは、通常の発達を遂げる子どもたちが無意識のうちに心で行う想像力のプロセスを、自閉症の子どもたちに対しては、写真やイラストなどの視覚的な材料を用いて外部から手助けすることを指します。
自閉症の子どもたちの問題行動の増加には、このような想像力を支えるための適切な支援が行われていないことが一因としてあります。子どもが成長するにつれて問題行動が自然に減少するわけではなく、これらの行動を減少させる鍵は「想像力の支援」にあるのです。
ただし、運動に対する支援は、自閉症の子どもたちが直面する他の課題を支援する場合とは異なるアプローチが求めらます。
自閉症の特性と課題
自閉症の特性に関して、親や支援者が特に困難に感じる点をまとめてみました。
知的な遅れ | 社会性の問題 | 感覚の問題 | |
---|---|---|---|
言葉の遅れ | ○ | ||
生活スキルの遅れ | ○ | ||
運動が苦手 | ○ | ||
手先が不器用 | ○ | ||
コミュニケーションが苦手 | ○ | ○ | |
指示が通りにくい | ○ | ○ | |
こだわりが強い | ○ | ||
変化に弱い | ○ | ||
集団生活が苦手 | ○ | ||
パニック | ○ | ||
癇癪 | ○ | ||
問題な行動 | ○ | ||
多動 | ○ | ○ | |
感覚過敏と感覚鈍麻 | ○ | ||
偏食 | ○ |
自閉症の子どもは運動が苦手
自閉症を持つ子どもたちが運動に関して抱える課題は、大きく三つのカテゴリーに分類することができます。これらの課題は、単に運動スキルの欠如を超え、子どもたちの日常生活や社会参加にも影響を及ぼします。
- 一般的な運動能力の欠如: これは最も一般的な課題であり、運動能力全般にわたる難しさを示します。単純な体操から複雑な運動まで、広範囲にわたる活動が困難です。
- 対人性とルールベースの活動への苦手意識: 自閉症の子どもたちは、相手との対話や予測を必要とするスポーツや遊びに特に苦労することがあります。これはルールを理解し、チーム内での役割を認識することが難しいためです。
- 球技における特有の苦手意識: 球技は特定の運動能力と協調性を要求されますが、これらは自閉症の子どもたちにとって特に難しい分野であることが多いです。ボールの軌道を予測することや、正確なタイミングでの反応が要求されるため、挑戦的なものとなります。
自閉症の子どもが運動が苦手な理由
自閉症の子どもたちが運動で苦労する根本的な要因として、「身体の自己認識と想像力の欠如」が深く関わっているとの見解があります。
運動全般が苦手になる原因
運動行為は、現在の身体の位置や動きを瞬時に理解し、次の動作を無意識のうちに計画する能力を必要とします。自閉症の子どもたちには「ボディーイメージ」が希薄であるとしばしば言われており、これは身体各部の位置や動きを自己認識することの困難さを意味します。視覚的に手足を確認できても、身体全体を総合的に把握することは困難です。この「想像力の欠如」は、自閉症の子どもたちが身体全体のイメージを形成する上で障壁となります。
動作を計画し、次の位置への移動を想像するにも想像力が重要ですが、これが自閉症の子どもたちにとってはさらなる挑戦です。もし身体の初期イメージが不明確で、次の動きを想像することもできなければ、通常の子どもたちのような流暢な運動は期待しにくいでしょう。
運動の機会が減少すると、「運動が苦手」というレッテルが貼られることなってしまいます。
相手やルールのある運動が苦手な原因
他者と協調して運動を行う場合、それは相手の次の一手を予測し、それに対応する適切な反応を要求します。自閉症の子どもたちにとって、このような予測は特に難しい課題です。
運動におけるルール理解に関しては、ルールを念頭に置きつつ、それに沿った動きを無意識に組み立てる必要があることを考えると、想像力の欠如は大きなハードルとなります。規則に基づいて動きを計画し、実行することが自然にはできないのです。
対人的な要素やルールを巧みに扱うことが難しい子どもは、しばしば仲間から遊びに誘われることが減ります。このような状況は、自閉症の子どもが集団での運動や活動に参加する機会を失う結果につながりがちです。
球技が苦手な原因
球技の要となるボールの軌道を予測する能力は、そのスポーツを楽しむ上で不可欠です。多くの人にとっては直感的なスキルかもしれませんが、想像力に障害を抱える自閉症の子どもたちにとって、動いているボールを目で追いかけ、それに応じて反応することは格段に困難です。
運動の支援の優先度
小さいうちは、運動能力が低くても日常生活に致命的な影響はありません。しかし、自閉症を持つ子供にはしばしば行動上の課題が伴います。これらは彼らが適切な行動を取ることを妨げ、また時には周囲に迷惑をかける行動を引き起こすことがあります。
したがって、運動能力の向上よりも、これらの問題行動に対処するための支援に努力を集中させ、時間を投資することの方がより重要と思います。
運動の重要性と支援
運動が自閉症児に与える影響については、全てが明らかになっているわけではありませんが、いくつかの重要な点が知られています。
- 定期的な運動を行う自閉症児は、問題行動が少なくなる傾向にあります。
- 運動不足の子どもは、問題行動が増加する可能性が高いです。
これに基づき、自閉症の子どもに対して日常的な運動を促すことが勧められています。
学齢期の子どもの場合
通常の学校や支援学校に通っている間は、学校のカリキュラム内で定期的な運動の時間が確保されているため、家庭で特別な運動を計画する必要は少ないでしょう。
社会人としての生活を始めた場合
社会に出てからは、自閉症の人々の運動時間が大幅に減少することが一般的です。一部の作業所では農作業など体を動かす時間が設けられており、自然と運動が行われる場合もありますが、多くの場合、日々の運動の機会は限られています。
このため、家庭で日常的な運動を組み込む支援が重要になります。たとえば、朝夕に30分の散歩を取り入れるなどが効果的です。
おわりに
今回は、「想像力の不足」とそれが運動能力に影響を与える様々な状況についてお話ししました。
自閉症の子どもの想像力を支援しながら、運動不足を克服する方法は存在します。このテーマは複雑であるため、一連の話が進んでから、再びお話ししようと思います。
次回も、「想像力の不足」に焦点を当て、理解を深めるために具体的な例をお話ししようと思います。
私と一緒に適切な支援に向けて、成長していきましょう。
コメント