自閉症の原因と適切な支援 / 手先が不器用編

自閉症の原因と適切な支援 / 手先が不器用 自閉症スペクトラム

自閉症の子どもたちの行動や特徴は多くの人に知られていますが、これらの特性の根底には、より深い共通点が存在します。それは、目に見えないものを心で描く「想像力」が十分に働かないという点です。この「想像力の欠如」は、日々の生活における多くの挑戦の根源となっており、自閉症の子どもたちが直面する困難の多くを説明しています。

前2回の記事では、自閉症の子どもたちが経験する生活スキルの獲得の遅れと、運動不足の課題に焦点を当てました。

今回は、そのスポットライトを手先の不器用さに向け、この問題がなぜ発生するのか、そして手先の不器用さが、自閉症の子どもの支援にどんな影響を及ぼすのかをお話ししたいと思います。

適切な支援への道:絵カードを使ったスケジュール表とカレンダーの利用

自閉症の子どもの支援は、「絵カードを使ったスケジュール表とカレンダーの利用」から始まり、それに日常的に継続利用していれば、ほとんどの問題は解決します。

自閉症の子どもは「見通しを立てる力が弱い」とよく言われます。これは、「想像力の欠如」とか「先を読む力が弱い」と同じ意味合いを持ちます。

それらの能力が低いと、とにかく自分の目の前に見えた物事の好き嫌いで、行動を起こしたり逃げたりしてしまいます。そうならないように、少し先の事を子どもに伝える支援方法が「絵カードを使ったスケジュール表とカレンダーの利用」なんですね。

そして、その支援の具体例として「絵カードを使ったスケジュール表とカレンダー」が挙げられます。「絵カードを使ったスケジュール表とカレンダー」の有効性は極めて高いにも関わらず、多くの人々、専門家さえもが、その真の価値を見過ごしているのが現状です。

見通しを見せる支援のハードル

絵カードを使ったスケジュール表とカレンダーの有効利用のハードルとなっているのが下記の2つだと私は思います。

  • 正しい支援方法を知らない:これは親や支援者だけでなく、専門家にも当てはまります。多くの人は見よう見まねで、「絵カードを使ったスケジュール表とカレンダー」の支援を始めます。支援のポイントを知らないと、自閉症の子どもは有効に使えません。そして効果が出ず、その支援をやめてしまします。そうやって真の価値を見過ごしているのです。
  • 手先の不器用さが利用を妨げる:絵カードは最初は親や支援者がボードに貼っていきます。そして、それらを動かしながら使っていくのは子ども自身です。簡単な方法で絵カードを作ってしまうと、手先が不器用な自閉症の子どもはうまく絵カードを使うことができません。手間暇をかけて、動かしやすい(貼ったり、外したりが容易な)絵カードを準備する必要があるのです。それを怠ると、せっかく作った絵カードが効果を発揮できないのです。
自閉症のスケジュール表:望まれる行動を引き出しパニック解消
自閉症の子どもにスケジュール表で見通しを見せるだけでは、行動を変えるスイッチにはなりません。子どもの心を揺さぶり、望ましい行動を引き出すためには、楽しい目標となる見通しをキチンと見せなければなりません。コバリテ視覚支援スタートキットIIは、それを可能にするめに専用設計されたスケジュール表と絵カードのセット製品です。

今回の記事では、手先の不器用さをお話しします。

手先の器用さはどう育まれるのか?

手先の器用さが育まれる過程には、さまざまな背景があると考えられます。その中で、「想像力」をキーワードにして「指先を細かく動かす」を例に説明していきたいと思います。

一般的な子どもの「指先を細かく動かす」スキルの習得過程

「指先を細かく動かす」スキルをもっと具体的にして見ましょう。

  • おもちゃで遊ぶ(積み木、ブロック、ミニカー)
  • お箸を使う
  • クレヨンで絵を描く、鉛筆を使う

「おもちゃで遊ぶ」スキルの習得には「想像力」が大きく関与しています。おもちゃで遊んだ結果、想像力が養われるというのが一般的な認識ですね。でもよく考えると、おもちゃで遊ぶには、最初にある程度の想像力が必要になります。

普通児は、目の前にあるおもちゃを見て、「そのおもちゃをどうするか」を頭の中で無意識に想像しています。そして、「おもちゃをその状態にするには、指先をどう動かせば良いか」も頭の中で無意識に想像しています。

そして、想像通りにおもちゃがならなければ、違う指先の動かし方を想像します。試行錯誤を繰り返して、最初の想像通りにおもちゃがなります。「やったー、積み木のタワーができた!」

おもちゃでで遊びながら、試行錯誤を繰り返します。指先を動かす回数も増えていきます。そして、だんだんと指先を動かすことが上手になっていきます。

「お箸を使うスキル」も「クレヨンや鉛筆を使うスキル」も同様に、頭の中で無意識に目標と指先の動かし方を想像しながら、試行錯誤を繰り返します。

そうやって普通児は、指先を器用に動かすスキルを身につけています。

自閉症児の「指先を細かく動かす」スキルの習得過程

自閉症児の場合、指先を細かく動かすスキルの習得には特有の挑戦が伴います。

彼らにも、積み木やブロックやミニカーなどのおもちゃが用意されることは、普通児と変わりません。

しかし、大きな違いは、自閉症児の心の中に「そのおもちゃをどうすか?」を想像する能力が低いか、もしくは存在しないことです。積み上げてみようとか、何かの形にしてみようとか、は想像していないようです。

とはいうももの、自閉症の子どもも、ミニカーを並べてみたり、前後に動かして遊ぶことはやっています。それらの動作は、指先を細かく動かさなくてもできます。自閉症の子どもは、指先を細かく動かす機会や試行錯誤が少ないので、「指先を細かく動かす」スキルはなかなか育まれません。

「お箸を使うスキル」も「クレヨンや鉛筆を使うスキル」も同様に、目標と指先の動かし方は頭の中には浮かんできません。

でも毎日しないといけない生活行動は、普通児に比べると時間はかかりますが、指先が不器用ながらも、それらのスキルは身についていきます。

そして多くの親や支援者は、「子どもが手先が不器用」なことを見逃しています。専門家なら自閉症児の特性として「手先が不器用なこと」を常識的に知っています。が、それ自体をあまり問題視していません。

指先の不器用さの支援

指先を動かす練習

普通児と同じように、自閉症児も指先を動かす回数を重ねると、指先の不器用さは解消されるでしょう。しかし、指先を動かす練習は現実的ではありません。最初もうまく指先を動かせないので、練習には困難が伴います。そして、いくら練習場面を作っても、普通児が日常的に指先を動かす試行錯誤の回数には、とうて及ばないと思います。

指先が不器用でも使えるグッズを用意する

指先の不器用さをカバーするには、特別なグッズを用意する、または使いやすいように改良するのが効果的でしょう。

例えば、スプーンや箸ならば、手先が不器用でも使えるような、特別なスプーンや特別な箸が購入できます。傘の柄が持ちずらいならば、傘の持ち手に太いグリップを被せて持ちやすくすることも考えられます。

そして使いやすい絵カードの準備です。一枚だけ見せるような場面の絵カードは、ほとんど工夫は必要ありません。しかし、自閉症支援の絵カードは、複数枚の絵カードを並べて子どもに見せることと、子ども自身にその絵カードを動かさせることが真髄です。「想像力の欠如」をカバーする支援には、複数枚の絵カードとボードが必須です。指先が不器用でも、子ども自身が外して動かすことが容易な絵カードを準備してください。

おわりに

今回は、「想像力の不足」とそれが「指先の器用さ」に影響を与える状況についてお話ししました。

多くの方は、「指先の不器用さ」を気にかけている人は少なかったと思います。自閉症児の特性の一つぐらいの認識だったかもしれませんね。

「指先の不器用さ」は、支援する私たちにとっては厄介な特徴です。なぜなら、支援グッズの準備のハードルが上がるからです。

次回からは、「想像力の不足」と「社会的な行動」の関連についてお話ししようと思います。社会的と言っても家庭内も小さな社会です。子どもの家庭内の行動の話が、次回から始まります。

私と一緒に適切な支援に向けて、成長していきましょう。

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