お支度ボードは2016年ごろから、幼稚園児のママさんの間で認知され始めました。当時は手作りが主流でした。ここ数年は市販品が出回るようになり、2,000円程度で手に入ります。メルカリ等のフリマで、手作り品を安価で売っている個人の方もいらっしゃいます。
自閉症のお子さんの支援では、「子どもが見通しを持てるように、家庭で絵カードを使ったスケジュール表を使いましょう」と勧められます。見通しを見せることは、とても効果のある、基本的な支援ですね。
そんなこんなもあり、自閉症の子どものために、お支度ボードを購入されるご家庭も多いようです。ところが、お子さんが、発達障害や自閉症の場合「せっかく準備したのに、お支度ボードが3日も続かなかった。」というご家庭がほとんどです。
なぜなのでしょうか?
お支度ボードと、自閉症支援用のスケジュール表は、全然違うんですよ。見た目は同じように見えますがね。
そしてもう一つ大きな違いがあります。お支度ボードを見た時に、健常児が頭の中に描く見通しと、自閉症の子どもが頭の中に描く見通しが、全然違うんです。同じお支度ボードを見てもですよ。
お支度ボードの概略
まず簡単にお支度ボードをおさらいしましょう。
構成は、A4サイズの小型ホワイトボードと、マグネットシートでできた両面の絵カードが十数枚です。絵カードの表面には一つのお支度が文字やイラストで描かれていて、裏面は「よくできました。」が描かれています。
使うときは、子どもがまずお支度ボードを見ます。絵カードの中から一つ選び、そのお支度をやります。そのお支度が終わったら、その絵カードを裏返します。すると、「よくできました。」が現れます。
子どもは楽しみながら、朝のお支度をやっていくという、便利グッズです。
お支度ボードは、基本的には、子どもが朝にやるべき事のリストです。
普通の子どもと自閉症の子どもの違い
普通の子どもがお支度ボードで描く見通し
お支度ボードで表示されている内容は、朝の生活行動です。「トイレ」、「朝ごはん」、「着替え」、「歯磨き」、「カバンの準備」などなど。それらは、子どもが好き好んでやる行動ではありません。お支度ボードがなかったときは、なかなか捗らなかったでしょ。
でも、健常児はお支度ボードを見せられた時に、こんな見通しを頭の中に描きます。
- 全部終わったら、遊べる(おもちゃ、テレビ、スマホ、など)。
- 全部終わったら、幼稚園・学校に行ける(それらは楽しい場所)。
- 全部終わったら、お母さんはニコニコしている。
やりながら、
- 残りのこれが終わった、遊べる。
- 残りのこれが終わったら、幼稚園・学校に行ける。
- 残りのこれが終わったら、お母さんに褒められる。
そして、全部が終わると、自分が立てた見通しの通りに、自由に遊びます。
自閉症児がお支度ボードで描く見通し
自閉症の子どもは、頭の中で見通しを立てることが苦手です。でも、見せられた見通しなら理解できます。だから、自閉症児はお支度ボードを見て、そのまま理解します。
すると・・・、「トイレ」、「朝ごはん」、「着替え」、「歯磨き」、「カバンの準備」をしないといけないと理解します。
頭の中で見通しを立てることが苦手なので、「全部終わったら、遊べる」という見通しはありません。
お支度の一つ一つは好き好んでやる行動ではなかったですよね。自分の頭の中にある(見せられた)見通しは、やりたくないのです。
お支度ボードがない時は、「やることがわからなかったので、動かなかった」のかもしれません。お支度ボードがある時は、「やることがわかった上で、動かない」のです。
自閉症支援のためのスケジュール表
スケジュール表で見せるべき内容
スケジュール表なら、必ず自閉症児の朝がスムースになるというわけではありません。
お母さんが子どもにやってほしい生活行動ばかりを並べると、やっぱり子どもは動きません。
スケジュール表が上手く行っているご家庭では、必ず、一連のお支度の最後に、子どもの好む活動の絵カードを貼っています。
お母さんは、子どもに
- あなたがやるべき事を順番にやっていくと、最後には、あなたの楽しいことができる。
と見せているのです。
自閉症の子どもは、見せられた見通しをそのまま理解します。
楽しいことが待っているので、途中のお支度もスムースに進むのです。
お支度ボードに欠けている物
お支度ボードに戻りましょう。見たことのある市販品のお支度ボードを思い出しください。
- 市販のお支度ボードには、「おもちゃ」「テレビ」「あそび」「図鑑」「DVD」など、子どもが好きな活動の絵カードは含まれていません。
- 市販のお支度ボードには、子どもが好きな活動の絵カードを自作して増やしても、もう掲示するスペースが残っていません。
だから、お支度ボードは発達障害や自閉症の子どもには役にたたないのです。
もっと危険なのは、お支度ボードで失敗すると、お母さんは「我が子は、見せても動かない」と思ってしまうことです。そう誤解してしまうと、正しい見せ方を学ぼうとしなくなります。スケジュール表の絶大な効果を軽視してしまいます。
まとめ
お支度ボードが自閉症の子どもには役に立たない理由を解説しました。
- 健常児は、お支度ボードの内容が終わったら遊べる、と自分で見通しを立てて行動しています。
- 自閉症児は、見通しを立てることが苦手なので、お支度ボードを見てそのまま理解します。結果、やりたくないことばかりが見えるので、やろうとしません。
- 自閉症の子どもには、それらが終わったら自分にはどんないいことがあるかを見せると、途中のことはスムースに行動できます。
自閉症の子どもに、見通しを正しく見せると、こんな良いことがあります。是非お読みください。
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