支援者の行動原則

お母さんは子どもに行動を教え、子どもはその行動を身につけていきます。子どもが行動を身につけていく仕組みには4つのタイプがあります。

  1. 教えるべき行動をしたら、ご褒美をあげたり褒めたりする。
  2. 教えるべき行動をしなかったら、罰を与えたり怒ったりする。
  3. やってはいけない行動をしたら、罰を与えたり怒ったりする。
  4. やってはいけない行動をしなかったら、ご褒美をあげたり褒めたりする。

表にすると次のようになります。「飴と鞭」の表ですね。

教えるべき行動 やってはいけない行動
した ご褒美
褒め言葉

怒る
しなかった
怒る
ご褒美
褒め言葉

しかし自閉症の子どもの場合、罰を与えたり怒ったりしても行動は身につきません。それどころか、罰や怒ったりすることは子どもの問題な行動を引き起こす原因になります。また、やってはいけない行動をしなかったことに、ご褒美をあげたり褒めたりしても行動は身につきません。

お母さんや支援者は、日常的に自閉症の子どもにご褒美をあげたり褒めてあげたりしてください。

もう一つ、お母さんが子どもに行動を教える強力な手法があります。それは、あらかじめご褒美や罰があることを子どもに教えてあげる(約束してあげる)ことです。先ほどと同じように4つのタイプがあります。

表にすると次のようになります。

教えるべき行動 やってはいけない行動
する ご褒美
褒め言葉
の約束

怒る
の予告
しない
怒る
の予告
ご褒美
褒め言葉
の約束

自閉症の子どもの場合、罰や怒ることを予告しても行動は身につきません。また、やってはいけない行動をしなかったことに、ご褒美や褒め言葉の約束をしても行動は身につきません。

約束にはとても重要な性質があります。お母さんや支援者が一度約束を破ると(ご褒美をあげることを約束したのに、行動の後にご褒美をあげなかった)、子どもに対しては約束が効かなくなってしまいます。

お母さんや支援者は、日常的に約束を守るようにしてください。

具体的には、次のことを日常的にやってください。これが、支援者の行動原則です。ぜひ日頃から、この行動原則に従って、子どもと接してください。

怒らない・怖い顔を見せない

「飴と鞭」と言われるように、子どもを育てていくには、褒めることと、叱ることを混ぜながら行うのが普通です。しかし、自閉症の子どもには、お母さんが怒ったり、嫌な顔を見せたり、罰を与えることが、殆ど効きません。

子どもが行動を始めない時、お母さんが子どもを叱ると、子どもは行動を始めるでしょう。でも、すぐに子どもの行動は止まってしまいます。子どもが問題な行動を始めた時、お母さんが子どもを叱ると、子どもは問題な行動をやめるでしょう。でも、すぐに子どもは問題な行動を始めてしまいます。お母さんは叱り続けないと、自閉症の子どもはお母さんの思い通りにはなりません。

子どもを叱ることや叩くことには即効性があるので、お母さんは子どもを指導できたと勘違いすることもあります。怒ることも時には必要です。でも殆ど間の無駄です。

お母さんや支援者は、「子どもを怒らなくても、より良く育てる方法」、「子どもを怒らなくても、問題な行動を減らす方法」を身につけてください。

当たり前のことを褒める

子どもは褒められると、その行動を良くするようになります。子どもは褒められると、その行動が上達していきます。普通の子どもの場合、お母さんに褒められなくても、多くの生活行動を身につけていきます。どうやら、普通の子どもは自分で自分の行動を褒める仕組みが働いているようです。ところが、自閉症の子どもは、普通の生活行動を身につけるのが遅れがちです。どうやら、自閉症の子どもは、自分で自分の行動を褒める仕組みがあまり働かないようです。

だからお母さん!当たり前のことができたら、子どもを褒めてあげてください。外から褒めてあげないと、自閉症の子どもは普通の生活行動が身につきません。お母さんが子どもを手伝った時も、子どもを褒めてください。当たり前の行動ができたら、直ぐに褒めてください。

1日20回、当たり前の行動ができたら、子どもを褒めてください。毎日です。

そのためには、あなたの決めの褒め言葉を決めましょう。「よくできたね!」、「はい、良くできました!」、「おっけー!」、「良いね!」、「じょうず」。なんでも良いのです。でも、決めることが重要です。子どもが、当たり前のことができたら、0.5秒以内に、その言葉を発してください。決めの褒め言葉だけでなく、いろんな言葉でも褒めてあげましょう。

油断すると、お母さんは、子どもを叱ります。気がつくとお母さんは、「子どもができないこと」、「子どもがダメなことをやったこと」を叱っています。「子どもが当たり前なことができたこと」を褒めてください。そうすれば、お母さんは、子どもを怒らないでいられます。

子どもとの約束を守る(言行一致)

自閉症の子どもの記憶力は物凄いですよ。子どもだと侮ってはいけません。お母さんが言った約束を子どもは覚えています。特に、お母さんが言った約束を守らなかったことを覚えています。

お母さんは、約束なんかしていないと思うかもしれませんね。でも毎日毎日、子どもとの約束をしてますよ。

あなたは、「あとでね!」と子どもに言っていませんか? 子どもの要求に対して、お母さんがやることを先延ばしした約束です。お母さんは、あとで、子どもの要求を叶えてあげてください。「さっきのをやってあげる」と言ってあげてください。子どもは「もう忘れた」と言うかもしれません。でも、お母さんが「さっきのをやってあげる」と言ってあげることが、子どもとの約束を守ると言う意味です。

自閉症の子どもの行動支援は、まずお母さんや支援者が自分で言ったことを自らが行動することです。

自閉症の子どもは、本音と建前なんか理解できません。「こんな時は、ウソを言ってもいい」なんてのも理解できません。お母さんや支援者が約束を守らないと、自閉症の子どもは「”言うこと” と “やること” は違う」、「言葉と行動は違う」ということが刷り込まれていきます。

「言行一致」をお母さんや支援者自らが子どもに見せてください。

見せた予定は必ず実行(視行一致)

ちゃんと教えると、自閉症の子どもは見せた予定(行動支援ボードやスケジュール表)をきっちり守ります。言い換えると、自閉症の子どもは見せられた予定の行動とは別の行動をすることができないのです。

普通の子どもなら、見せた予定に対して、一部の予定だけ別の行動をさせても問題は少ないです。普通の子どもは、また行動支援ボードやスケジュール表の予定を見に戻ってきます。

自閉症の子どもに、行動支援ボードやスケジュール表の予定とは違う行動をさせると、見せた予定の全体が崩壊します。自閉症の子どもには、「自分が見た予定の中で、好きな行動は、保証される」、「自分が見た予定の中で、嫌な行動でも、必ずやらなければならない」ということを教えていきます。約束と同じです。

見せた予定は約束です。約束が守られないと、行動支援ボードやスケジュール表への信頼は崩れます。次の約束はもうありません。

見た予定と行動は一致する、ということを守らせてください。「視行一致」です(ただし、「視行一致」はここでの造語です)。

でもご安心ください。実行できない行動は、見せない(行動支援ボード上に貼らない)それでいいのです。

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